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地域医療研修医のための脳外科病棟カンファ2回目,2018年8月23日

DarkoStojanovic / Pixabay

盆休みもあって,なかなか次が開けなかった.
8月23日(木)17時半から行いました.
その後,病院のボウリング大会に行きました.

症例4例目 90才台 中心性頚髄損傷

典型的な患者さんが独歩受診.
平らなところで躓いて,おでこから転倒(CTで著明な前額部皮下出血あり)
両側の上肢,特に指先がしびれる.
触ると激痛が走る.
足は全くなんともない.歩けるし,しびれなし.
頚髄MRIでは,前後径が狭い.
頚椎脊柱管狭窄症というかCTでは著明なOPLLがある.
C4,5,6と典型的.
よく今まで,症状がでなかったこと.

この人の良かったところは,両上肢が来院時に挙上できたところ.
軽症の所見.
今となっては,ましては90才以上の男性に
NASCIS IIのメチルプレドニゾン大量療法は「しない」方が正しい.
まあ,翌日には,触っても痛みが出なくなっていたので,安心.
一般的には,「骨折のない頚椎損傷」で狭窄症のある人で,
過伸展損傷,すなわて首を後屈したときになるのが「中心性頚髄損傷」.
質問は,
「上肢のしびれ,麻痺が起きて両下肢は大丈夫」なのか?
という質問.
答えは,「前脊髄動脈,後脊髄動脈は脊髄の表面から血管が中に入っていく」
そのとき,脊髄表面を前後から圧迫すると,血管が押されて閉塞する.
そうなると,一番遠い部分,要は脊髄の中心が障害を受ける.
頚髄が一番起きやすい.それは可動域が一番大きいから.
温痛覚は「外側脊髄視床路」を上がっていくが,
頚髄では上肢の神経が下肢の神経の内側,要は中心側を上行している.
ということで,頸椎では上肢の温痛覚が障害をうける.
運動神経は,皮質脊髄路を下降していくが,内側を上肢の神経が走る.
要は,それで中心性頚髄損傷の特徴的な症状ができるというお話.

覚え方は,
「頚髄では感覚,運動神経共に,内側が上肢,外側に下肢の神経が
通っている.前後に圧迫された脊髄の血管障害は
外から一番遠い中心ほど障害を受ける.
従って,上肢の痛み,しびれと麻痺が起きる.
下肢はやられにくい」
となる.

話のついでにいうと,頸椎の過伸展,要は首を後ろに曲げるのと
過屈曲,すなわち前屈した場合では脊髄は長さはどれほど違うかという説明.
過伸展では,脊髄は上下に圧迫される.
過剰屈曲では,脊髄は上下に延ばされる.
脊髄はそれで2㎝以上長さが実は変わっている.延ばされたり短くなったり,
上下に圧迫されて短くなったら前後に膨れる.そうなると余計に狭窄症では
前後から圧迫される.
そうなると症状が出ることになる.
後上方向からぶつけられて首が前屈しても,「中心性頚髄損傷」は起きません.
などを初期研修/地域研修に来てくれた研修医師2名に説明しました.

症例5例目 70歳代 多形膠芽腫

物忘れを主訴に来院.
視床,視床下部,側坐核などに腫瘍がある.
しかも不均一で浸潤性.
単純MRIで,すでに悪性の印象.
造影MRIでは,不均一なリングエンハンスを示す.

造影MRIのリングエンハンスは何をしめしているか.
これは,腫瘍中心部が壊死に陥っている意味.
それは,腫瘍は自分で血管新生因子をだして,
外から血管を呼び込んで,腫瘍に栄養を与えて大きくなっていく.
その増大スピードが速すぎると,中心まで血管が届かないで,
外側に大きくなる.
そうなると腫瘍中心部への栄養が無くなるので,
中心部は壊死に陥る.
ということで,リングエンハンスされて内部が抜けた画像は,
それだけで悪性となる.

研修医の先生に質問.
悪性度はどんな風にグレーディングをしているか?
1)最初は細胞の数.
グリア細胞は神経細胞の10倍以上脳内には存在している.
その細胞の密度が通常より多いとグレード1になる.
2)核の異形性
見た目が普通の神経膠細胞から,
核が大きくなったり奇妙な形になったりすると
グレードがさらにあがる.グレード2.
3)分裂像
MIB-1 index, Ki-indexなど,
分裂している細胞の割合が大きくなると
さらに,グレードがあがる.
悪性の基準は5%だったか忘れた.(又調べます)
4)多形性,壊死の存在
細胞が集簇したり,新生血管の集まりができたり,光学顕微鏡で
様々な形に見えます.ここまで行けばグレード4の悪性.

なんとなく上のグレードは,民衆の蜂起とかクーデターとか,
革命などを連想させる.
「まずは,普通の民衆が集まって話をする.グレード1.
そのうち,デモや武力も辞さずという人達もでてくる.
目つきのよくないヒトや独特の服装のヒトも増え出す.グレード2.
さらには,各地で反対集会を繰り返すようになる.
大きなうねりとなって,全体にひろがる.グレード3.
最後には,あらゆる手段を使って,現体制,政府の転覆を謀ろうと
各地で施設を壊したり,焼き払ったりの衝突を起こす.
大混乱に陥る.お互いに多くの犠牲者がでる.グレード4.
その過程を神経膠細胞が脳内で起こしているという印象.

治療方法も同じようなたとえが出来る.
最初は,武装勢力のできる限りの制圧(手術でできる限り摘出)
残存兵力の中でも勢いのあるものへの
資産凍結,武器供給源の殲滅にもにた活動制限(化学療法)
反乱の危険性があるものには戒厳令をしいて,
出てこれないようにする.(放射線治療)
さらには,暴徒になりそうな集団へのあらかじめの抑制
(遺伝子治療,免疫療法など)
でなんとか封じ込もうとしているのが現状.

実際の臨床をやっていると,グレード4の中にもさらに,
悪性度はピンキリとわかります.
術後の放射線照射中にどんどん大きくなっていったものもありました.

テモダール(DNAのメチル化で代謝を落とす)が出てきて,
予後は2-3ヶ月伸びました.これは画期的でした.
さらにはアバスチンで新生血管増殖因子を阻害できて,
予後はさらに2-3ヶ月伸びた印象.
過去30年間で発見からの予後が平均13ヶ月ぐらだったものが,
この5年ぐらいで日本では20ヶ月ぐらいまで伸びた.
他の国よりは,4か月ぐらい予後が良い.

アバスチンは100 mgが4万円で400 mgなら16万円もするのは,
知りませんでした.10 mg/kgで2週間に一回だと,
50 kgのヒトなら一回500 mg,
月に2回なので毎月40万円かかる.
もちろん,保険は通る.
他の抗がん剤の中には,もっと高額なものは沢山あります.

本症例は,最初に「大きく切除」できる部位ではない.
視床を中心に上にあがり脳梁を介して両側に浸潤しているのなら,
定位的生検と全能照射と化学療法と治療方針はすぐ決まる.
手術が出来ない症例は,
予後が4か月は短かかったと覚えているが正確ではありません.

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