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研修医のための脳外科カンファ 37回目 2019年6月25日

6月の研修医さんには,最後の症例提示

その1.80才代 視床症候群 認知症

左顔面と左肘が痛い.これは右視床の穿通枝梗塞.
いわゆるCheiro-oral 症候群で,ここでは何回も出てきた.
今回は,穿通枝梗塞がもう少し大きめで左上肢と左頭頂部,左頬部がしびれる.

問題は,昨年末に交通事故2回.しかも本人は大きなトラックを運転するとのこと.
他にも,認知症のBPSDがある.
認知症というと,「物忘れ」と即答しそうだが,実際は多岐にわたり,
脱抑制,易怒性などがみられる.昨年末には運転していて,交通事故2回.
もちろん,認知症がなくても80歳代後半になって,反応速度が遅くなる人は大勢いると思う.TVでもやっていたが,「高齢になればなるほど,自分は運転はうまい」と思っているヒトの率が高くなる.
アルツハイマーの「取り繕い反応」なども含めて,今後は「記憶力」とは別の認知症の側面が,BPSDではなく,もう少し一般人にもわかりやすい名称で語られないと広く理解されないと思う.

その2.80才代 DOACを飲んでも脳塞栓

急に左上下肢麻痺と構音障害で救急搬送された.普段は自転車で通院しているヒト.
最近,よく報告されるDOAC内服中の脳塞栓.
しかも80才代後半で,すでに小脳梗塞,左前頭葉の脳塞栓歴がある.心房細動がある.
ポイントは,すでに以前からダビガトランを朝夕内服していること.
DOACには,結構厳しいガイドラインがある.
まずは年齢(Age), 腎機能(Kidney) GFRが60と30が境界.さらには体重(Body weight),
その3個の頭文字をとってAKBと覚えておく.
DOACを使っても脳塞栓を起こす場合はどうするか.
選択肢は1)別のDOACに変更.2)ワーファリンでINRを測定しながら強度をあげる.の二つしか無い.
抗凝固機能を挙げるには,結局,ワーファリンの増量しかないというのが,循環器内科医師の結論でした.
なんか一周まわって,やはりワーファリンが最強という結論のような.大きな理由はPT-INRをみながら調整できること,以前は,その調節が大変なので,DOACができて,本当に良かったという考え方であった.ワーファリン1mg,1錠が10円という激安価格ということもある.施設に移動するときに,必ず施設側から「そのDOACはワーファリンに変えてから,こちらにきてください」といわれる.高齢者なので体重も軽く,食欲もすくないため,ワーファリン2錠は多すぎることが多いので,「激安価格」まで毎日の出費がさがる.もっと言えば,1日500円が20円に下がる.売り上げ制でなく,マルメで,一日の収入が決まっているとき,この出費の差は大きい.収益に大きな差が出る.施設にいけば,採血の頻度も3ヶ月に1回なら多い方.それを見越して,量の設定をして送り出すのが主治医の仕事の一つである.全く医学的な検討とはことなる一面がある.

その3. 60歳台,肺がん脳転移疑い例

これは,以前は中脳,視床に淡い数mmの増強効果を認めた.癌の転移なのかどうかの問題.
しかし,3週間後にもう一度造影すると,全く写っていない.その原因の検討.
1)画像上の問題.以前の時は,少し患者さんが動いた?
あるいは,slow flowの血管が信号として読まれた?
いわゆるアーチファクトであった可能性はどうかということ.
2)新しい,化学療法の薬が効いた? 今はやりの高額薬剤であるがどうか.
転移巣ごと,消してしまったかどうか.今の時代なら,あり得る話.

歴史的には,脳に多発の転移がでても,ガンマナイフ,サイバーナイフで当てているうちに,全身状態が悪化するのが通例であった.
今は,全身状態も再び持ち直すことが可能になりつつあり,そのとき頭蓋内に転移していると,それが問題になることがしばしばあり.

その4. 80才代 脳膿瘍の長期経過

これは,脳卒中様の上肢の単麻痺で発症して,排膿手術が奏効したかと思えば,セフトリアキソン,フラジールでは効果無くバンコマイシンが効果あり,8週間かかった.その間に下肢の深部静脈塞栓,さらには小脳梗塞を併発.次はたこつぼ型心筋症で専門病院転院と大変であったが,麻痺はある程度改善,脳膿瘍も消失した.全部で半年は戦い続けた.

切開排膿術の適応の大きさは2cm,
膿汁は強酸性の液体.これが脳室などに流れると非常にこまることになる.
「エイリアン」のはき出す液体が強酸性であった.非常に強い刺激性の液体であるたとえとして説明したつもり.それで宇宙船の壁も溶ける状況であった.研修医の先生に説明すると,卒後2年目の研修医の先生方は,「エイリアン」と言う映画自体を全く聞いたことがなかった.驚いた.文化を共有していなかったと判明.

 

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