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研修医のための脳外科カンファ 61回目 2020年5月19日

DarkoStojanovic / Pixabay

地域枠の2年目の初期研修医に説明した.時間がないので途中で終わった.

症例1 70歳代 側頭葉神経膠芽腫

2,3日前から話しにくいと独歩受診.
MRIでは,左側頭葉の嚢胞性多発腫瘍にみえる.
T2★では,嚢胞壁と嚢胞内に出血がある.
造影MRIでは多発のリングエンハンスにみえる.
鑑別診断は,
1)まずは良性か悪性か.
リングエンハンスというだけで,悪性.
それは,新生血管ができて,真ん中まで栄養を供給するのが
間に合わないぐらいに腫瘍の成長が早いこと意味する.
真ん中まで栄養が行かないので中央部は壊死してしまうから
周囲は造影されて中央は造影されないという理屈.
さらに造影されるのはなぜか説明.
正常の脳実質の血管は,血液脳関門があるため造影剤は外にしみ出さない.
脳腫瘍の血管は不完全なので,血管壁から造影剤が漏出して,
「造影剤で増強される」という現象がおきる.
2)次は脳原発か転移性か
脳内に連続せずに特に両側に病変があれば,転移性である.
一側に嚢胞性病変が沢山あるようにみえる場合は,
転移性か不規則な形状の腫瘍か.
胸腹部の単純CTでは病変(-).
それ以上はさらに特殊な検査へ
3)メチオニンPETをしてみた.
活動性を見るものだが,FDGーPETとはだいぶ違う印象の画像にみえる.
全身のメタなどはFDG-PETで十分わかるが.
ということで,部分摘出術+拡大局所放射線治療+テモダール初期治療.
それは大学病院で.
研修医の先生が知っておいた方が良い言葉に,「拡大局所の放射線治療」というのがある.
これは,30 Gyを腫瘍のメインの部位にあてて,30 Gyを全脳照射する方法.
それで,腫瘍のメインの部位には60 Gy当たる.残りの部位には30 Gy当たって
正常な部位には少しでも少量で,腫瘍増殖を止める程度?で腫瘍本体には壊死に陥る程度までの量を当てるという理屈.

神経膠芽腫は今はテモダールとアバスチンがお約束.
テモダールで2-4ヶ月,アバスチンでも数ヶ月?予後が改善.
日本は診断から死亡までが18-20ヶ月ぐらいまで延びている.
30年前の11-12ヶ月よりはだいぶ延びた.
それでも,結構,大変.

症例2 80歳代 慢性硬膜下血腫術後けいれん

会話が合わないとのことで,紹介.
MRIで多発ラクナ梗塞.さらには毎日の飲酒.
来院前日の転倒もあり,
正中部の急性硬膜下血腫と左の慢性硬膜下血腫.
慢性硬膜下血腫も白黒まだら.
このhigh denseの部分の血腫が手術でとれるかどうかがいつも心配.
おそらく,ある値以上は排液出来ないというのがあると思う.
ハンスフィールド値で調べたら良いとは思うが,
すでに論文あるのか勉強不足で不明.
今回は,非常に濃厚な血腫液が吸引できた.
翌日のCTでも,術前にhighな液体の部分は排液されていた.
下半分がhgihで上半分がlowな場合は,普通に全部排液出来る.
しかしまわりにlowの部分があって,内部に三日月状にhighの部分があれば,
とれるかどうか心配になる.
排液した液体は,ドロドロのなかに溶けきっていない血塊のくだけたものが大量にあり,液体の部分もビーカーの中で固まってしまった.
脳脊髄液では蛋白が多くなるとFroin sign 「フロアン徴候」となって固まってしまう.

基本の基本として,血液は血管の外へ出たら,要は出血したら,凝固するように出来ている.凝固したことが合図となって,その塊を溶かす物質(線溶系)も発動する.そして,最後には凝固因子が使われて,線溶系が完成して二度と固まらない血腫液が完成する.
慢性硬膜下血腫の中の血腫液は,ジワジワと出て凝固しては溶解してを繰り返している.よって,その血腫液は凝固系も線溶系も活発な状態の液体となる.
血腫被膜が器質化して,もう出なくなれば線溶系の活動で,二度と固まらない血腫液が完成するということ.
フィブリン血栓などがまだ出来る余力?がある新しい血腫液は被膜外の外に出れば自然に凝固する.
まあ,フィブリンの凝固で固まるのは,「まだ新しい出血」ということを意味する..

翌日の画像は問題なかったが,
本人がジャクソニアン痙攣をおこした.
圧迫されていた脳の過活動.
ちょうど圧排されていた部位に脳梗塞での欠損がある.
その周囲が痙攣源の痙攣であろう.
高齢,無症候性多発脳梗塞,延々と続く飲酒の習慣,急な脳の圧排の除去など「てんかん発作」を起こす条件は揃っていた.
いわゆる「初期てんかん発作」なので,継続的に抗てんかん薬を飲まないといけないかどうかはなんとも言えない.
別に慢性硬膜下血腫がなくても高齢者のてんかん発作は多い.
別に高齢者では無くても,アルコール多飲患者のてんかん発作も多い.

全部の可能性を説明するのは術前には困難ではあった.

症例3 80歳代 両側慢性硬膜下血腫

転倒して,軽度の急性硬膜下血腫,外傷性SAH,脳挫傷とあった.
それでも症状は軽減し,一旦独歩退院.
その後,3週間とすこしで,「立位困難」で受診.
慢性硬膜下血腫の「慢性」は受傷後3週間以上経過したもの.
「受傷後3日以内」を急性硬膜下血腫と呼ぶ.
その間を「亜急性硬膜下血腫」と呼ぶ.

ちょうど,慢性硬膜下血腫の時期になったもの.
高齢者の特徴は「元気が無い.食欲が無い」なので注意.
脳卒中のヒトが必ず訴えるのは「調子が悪い」なので,
それぞれの疾患のキーワードと覚えている.

慢性硬膜下血腫の特徴は先に「下肢麻痺」がでること.
それは,正中には大脳鎌があり,外側から慢性硬膜下血腫で脳が圧排されてきたら,前頭葉の正中の下肢の錐体路の大脳皮質の細胞部分が圧迫され,大脳鎌との間にはさまれて,余計に圧排が強くなる.
外側にある手の運動野の部分は大脳鎌の下側で正中にどんどん逃げれる余裕がある.
ということで,「スリッパが脱げる」「立ち上がりにくい」などを訴えるヒトに慢性硬膜下血腫になっているヒトがいる.
この方は,両側慢性硬膜下血腫だったので「立位困難」の訴えは,ほぼ典型的で理想的でした.
両側130 ml以上あったので,幾ら脳が萎縮していても逃げ切れなかった量となっていました.

*上記2例は研修医と一緒に手術をしたので,今回は説明しました.

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