サイトアイコン Youは何しに真庭へ

研修医のための脳外科カンファ 62回目 2020年5月26日

本日も4例.日常が戻ってきた感じ.
自粛時代が懐かしい.
ホンマニに,忙しい.

症例1 60歳代 小さい脳出血,MRA(MR脳血管撮影)は?

未治療の高血圧は最近は珍しい.
しかし,田舎の場合,病院通いも大変.
ということで,結構,田舎には高血圧未治療のヒトが存在する.
1.5 cm程度の左視床出血.
右上下肢の違和感.
それ以上に独歩来院して260/160という血圧が久しぶり.
高血圧性緊急症で240ぐらいのヒトが時に頭痛で救急搬送されてきたりする.

血圧だけが異常値ということは通常はない.
脂質異常症もあり.
MRA(MR脳血管撮影)では,血管は動脈硬化性変化著明.
要は,デコボコ.
一般人のヒトからの質問で,「高血圧のヒトが脳出血になるのはわかる」
が,「脳梗塞になる理由がわからない」がある.
高血圧に合わせて,血管の壁は厚くなる.
壁が厚くなるのは,外側に厚くなるのではなく,内側が厚くなる.
通り道が狭くなる.
それに脱水などが加われば,閉塞するということ.
動脈内の壁もデコボコで血小板血栓も出来やすい.
そんなこんなで高血圧は脳出血,脳梗塞の両方の危険因子である.
なんか,極めて基本的なお話.
本人の自覚が全くない症例も,田舎に来たら多い様に思う.

症例2 60歳代 化学療法中,PRES? 原因は?

癌の化学療法をしている.
2,3か月前から急に脱力発作のように,両手,両足の力が抜ける.
羽ばたき振戦のような感じ.
本来の振戦は電気的な活動の結果,生じる.
羽ばたき振戦は,一瞬の電気活動の停止で脱力する.
四肢の脱力?
その後は,傾眠になる.
また意識が戻る.
症状に波がある.
抗がん剤で白質脳症を起こすことがある.
RPLS:(reversible posterior leukoencephalopathy syndrome)と呼ばれる一群のもの.
それは「早期に」MRIでFLAIRなどで白質に脳浮腫が出現するので,
白質脳症と分かることが多い.
そうでないなら,別の物を考えることになる.
脱力発作というか陰性ミオクローヌス.
傾眠,易怒性など合致はしている部分はあるが,
2か月前も今回もMRIの単純,造影で異常所見(-).
それなら脳全体に影響を及ぼすものは何ですか?
「分からん時のルンバ-ル,困った時のステロイド」と
昔からいわれているので,ルンバールをしてみた.
髄液検査で間違いなく,蛋白のみ高値.
来院時の画像検査,採血は異常なし.
以上の事から,辺縁系の自己免疫性脳炎などを疑いました.
これは,高次機能病院へ御願いした.
しかし,自己免疫性の髄液中の抗体は上昇していなかった.

症例3 60歳代 後頭葉 PCA系の多発塞栓

一般的には,脳塞栓は心原性と動脈源性に分けて考える.
わかりにくいのが,小さな多発脳塞栓が多発する症例.
心臓検査は必須だが,心エコー,ホルター心電図でも異常なし.
頚動脈エコーでも異常なし.
さらに徹底的に検査するなら,CTAで大血管系を調べる.
要は,上行大動脈からの血管分岐部がデコボコの動脈硬化になっている場合.
椎骨動脈の起始部が狭窄のヒトも時々散見する.
それも無かったら何が原因なのか?

調べても分からない症例は時に経験する.
後頭葉のやや広い範囲と後交通動脈からの穿通枝の一部の多発微小脳塞栓となった方.
よく見る変化は来院時は後大脳動脈は閉塞しており,数日後の再検で再開通している症例.
再発予防薬も「抗凝固剤」ではなく「抗血小板剤」になるので,注意が必要.

症例4 40歳代 肺芽腫+STGC 放射線の影響

40年ぐらい前に松果体部の腫瘍の手術.
その当時の知識では,
あまり放射線障害に対しては,まだまだ長期的な副作用に関しては
研究がされていなかった.
放射線をあてて30年後はどうなるなどの長期生存例がまだ無かった時代があったので致し方ない.これは実験動物では困難な時間軸の問題がある.
1960年頃には,足の「水虫」に対しても放射線を当てていた時代もあったらしい.新しい治療に対する過度の期待.
肺癌からの脳転移予防に15 Gyの予防照射などもガイドラインにあったらしい.

若年の脳腫瘍で有名なジャーミノーマというものがある.
髄液,血液中にHCGが産生される細胞を含むものがある.
その5年生存率は,純粋なジャーミノーマよりは少し落ちる.
1980年代は20 Gyの試験照射で消えれば良いなどと,
今ならあまり認められない方針もあった.

10才台に手術,放射線療法,化学療法で再発もなく切り抜けた症例.
その当時の治療水準の中でも最大限の成功例.
放射線による難聴は若いときに出現.他は通常のADL維持.
それが,25年以上の歳月を経て失行性失調性歩行などが出現.
脊髄後索の障害も出現.
再発ではない.白質病変は出ていない.
いわゆる「遅発性放射線障害」と考えられる
early delay(初期遅発性)とlate delay(晩期遅発性)がある.
一般的には遅く出たほど重症になると記載あり.
どうすればそれを防げるかという論文は,探しても見つからない.
華々しい初期治療には全力を挙げるが,
大学病院も,後はよろしくと地域の病院に頼んでくる.
まあips細胞の点滴などが適応になるか不明.
自分の予想では50年後の課題であろう.

モバイルバージョンを終了