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研修医のための脳外科カンファ 67回目 2020年7月29日

なんとか,時間があるときに行った.
今回も似たような症例.

症例1 60歳台 iNPH精査依頼のPSP疑い

「脳室拡大」があって認知症があるので,
精神科からも水頭症の増悪でしょうかと紹介されることがある.そしてiNPH(特発性正常圧水頭症)のテストでは,改善する.
タップテストは,ある意味,難しい部分が含まれる.
今は18ゲージの針で,30 ml 脳脊髄液を排液して,
3種類のテストをする.この試験のポイントはいくつかあるが,
排液後「3ないし5日後」に脳の機能が上がっているので,
そこでテストをする.1)椅子から立ち上がって3 m
歩いて帰ってきてまた座るまでにかかる時間.これは,失行,失調のテストである.
まわりから頑張れ頑張れと応援したら,一般にヒトは早く動ける.
「10%以上時間が短縮すれば改善」とみなす.2)MMSEのテスト
これは,3点以上改善したら,「改善」とみなす.3)10 m歩いて帰ってくるテスト
これは歩行障害のテスト4)尿失禁の改善の有無.
水頭症のヒトは,尿意を感じてから,トイレが間に合わないための
失禁が特徴である.それをもって特発性正常圧水頭症と診断して,V-P, L-P shuntをして,良くならなかった症例を結構見てきた.論文でも,タップテストで改善したのでシャントしたが,その後改善しなかった例にパーキンソン病,進行性核上性麻痺などの変性疾患が一番多いと記載があった.
脳外科医は脳の前額断をみて,頭頂部円蓋部が脳室で下から圧排されて,
脳溝がみえなくなった状態なら,次のタップテストに進む.
しかし,類似の症状で脳が萎縮傾向で脳室はそのために大きいヒトがいる.
基本,脳萎縮なら脳室は必ず大きくなる.

症例2 70歳台 完全に二層になった慢性硬膜下血腫

 

右下肢麻痺で来た患者さん,MRIでは,左の慢性硬膜下血腫は極めて不均一.
しかし,CTを撮ると完全に2層に分かれている.
前日,脱輪事故を起こした時に,慢性硬膜下血腫の表面に出た可能性がある.
通常,二層に別れているように見えても,
中は鍾乳洞みたいになっていて,どこかで繋がっていることが多い.
実際にオペしてみると,予想量の半分しか排液されない.
穿頭部位から内部を見ると,赤色の血餅のへばりついた被膜に見える.
18ゲージに10ccの注射器を付けて,「被膜を切開」するつもりで
一瞬切開すると,キサントクロミーの黄色い液体が噴出してきた.
そこで急いで吸引チューブに変更して吸引していると,
続けて濃い暗赤色のさらさらの血腫液が吸引できた.
洗浄して,穿頭部位から内部を覗くと,脳表の模様が見える.
無事,内部の血腫液も排液出来たと判明.
もし途中でやめていたら,再手術は間違い無かった印象.

自分が被膜の切開を考えてのは,前週に同様のことがあり,
「脳表が見えたので終了」とした結果,上層の半分しか血腫液がとれていなかった
ことを経験したため.
下部の被膜の脳側に1 cm以上の厚さで血腫液が貯まっているので,被膜切開で
脳自体,脳表動脈を傷つける確率は低いので,血腫量が予想より少ない場合は
被膜切開も必要と考えていたことが,実った.

症例3 70歳台 海綿状血管腫と脳梗塞の合併例

6年前に左視床の海綿状血管腫からの出血で,右下肢の軽度の不全麻痺あり.
これは,知識としてサイバーナイフは効かないというのは良くアル話.
AVMは効いて,海綿状血管腫には効かない理由.
海綿状血管腫の血管は基本静脈系である.そのために血管壁が薄い.
そして内腔が広い.
AVMのナイダスの中の血管は,動脈系の細動脈が入ってきて,
毛細血管網のようになって,血管径が細い.動脈系なので血管内皮細胞もある.
サイバーナイフは放射線を限局的に当てる治療.
それで,血管内皮細胞が膨化して血管腔を閉塞する.
それでAVMは詰まって行って閉塞するということ.
海綿状血管腫の場合は静脈系で内腔が広いので内皮細胞が膨化しても閉塞は
させられない.従ってサイバーナイフ,ガンマナイフなどは「効かない」となる.

海綿状血管腫は,もう一つ重要な知識が必要.
未破裂,出血前に発見された場合.その海綿状血管腫が出血する確率は
意外と低く0.5%程度などのデータが多い.
次に,出血で発見された場合.その海綿状血管腫が再出血する確率.
これは,以外に高い.年間7%などのデータがある.もっと高い物もある.
10%越えのデータもあるが,そこまでと言う印象は受けない.

これらが背景の知識.
今回は急な右上下肢麻痺でベッドから転落して受診.
CTでは左視床に海綿状血管腫の石灰化像がある.1.2cm程度.
それだけ見たら新たな出血に見える.しかし3か月前のCTと比べると,
全く変化なし.
脳MRIでは左の放線冠のラクナ梗塞あり.
T2*では,新しい出血には見えなかった.

今回は,こちらが原因であろう.
点滴の内容が真逆になるのでやや診断が困難であった.

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