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今までの5年間,これからの5年間

今までの5年間を振り返ってみたい.次の5年間のビジョンもまとめておく.
1)地域の現状と今後
2)脳外科の現状と今後
3) 自分の現状と今後
4)病院の現状と今後

5年間で真庭市の人口の減少

自分が,真庭に来た年は2016年10月から.
そこら辺で最も近い公式の人口は,2016年11月の47287人
最近の最も近い公式発表の人口は今年の7月1日付けの43773人.
その差は,3514人,一月に60人で年間720人減少.
丸5年に行くと3700人は減少と概算.

年間720ー740人の人口減の割合.
それは今の人口で計算すると,年間約1.7%ずつ減少している.

人口減少の内訳

出生者数との兼ね合い.今は高齢者グループ,85歳以上の人口が15歳以下の人口の倍以上.さらには0-5歳よりは85-90歳のヒトが3倍程度.
簡単に言えば,1名が生まれたら4人が無くなって行く計算.それでもものすごく急激に減らないのは,「高齢者が多いから」である.
要は,この5年間で740人が生まれて3840人が亡くなって,人口減は3700人という結果になっている.この5年間で生まれた0歳から5歳の子供さんが,自分の病院を受診する確率はゼロ.小児科がない.ということでさらに追加すると死亡した3840名と生まれて来た740名×4倍を追加すると,4580名がおおざっぱに言って,患者群から消えたことになる.
対象人口はこの5年間で大雑把にいって10.5%減少したことになる.
脳外科の対象人口が4600人/5年減少という試算.

どうも,計算がまちがっていたので,さらに詳しく計算してみました.
出生数の記録がある.
2016年317人
2017年288人
2018年277人
2019年235人
2020年237人
5年間合計:1352名生まれている.5年で年間出生数は80人減少.
ということは,出生数は25%,5年間で減少している.
その上で3514人減少ということは,4866人/5年間の死亡数となる.

脳外科への影響

亡くなったヒト,生まれたての5歳までのヒトは一般的な脳外科では診療の対象にならない.4866+1352=6218人となる.この5年間で脳外科対象の人口は6200人いなくなったとなる.47000人から6200人が対象からはずれた.さらに高齢者の寝たきりのヒトが脳疾患になっても,全身管理のみなので脳外科が診療することはない.
自分の印象では,この5年間で脳外科手術という意味での脳外科診療の対象は7000人は減少した.
後の5年では,死亡数がさらに増えて,出生数もさらに減る.7000人ぐらいが対象でなくなる.現在の43000人から2026年には38000人ぐらいの人口になりそう.

自分の病院の脳外科手術,脳卒中の数の変遷

大きく変化があった.
2016年にはまだ脳外科専門医が2名いた.2018年3月にその医師も退職.
2018年には手術も沢山あったが,急激に2019年から減少.
まあ,外来通院患者も頭痛と認知症の患者ばかりになった.
さらには2019年4月から手術場の「呼び出し」体制も終了した.
麻酔科常勤もいない.それまで3名がきてくれていたのも,1名が緩和治療をしたいとのこといなくなった.
脳外科で緊急手術ができない病院となれば,手術件数がへるのも当然.
まあ,対象人口の減少だけでなく,手術スタッフがいなくなったということで手術は減るのが当然の結果.

今後の5年間ではどうなるか.

さらに5年間が経過すれば,出生者の0-5歳になったヒトはもちろん適応にはならず.
人口の大半をしめる高齢者も順番になくなる.次の5年では,さらに加速がかかって脳外科の手術対象からは7000人が消えるであろう.単純計算で10年間で13000人が消える.
自分が,さらに5年働いて医師人生を終わるときには38000人ぐらいが対象になる.
2026年には,もう緊急手術をするような発想自体が消えていると思う.
もう,頭蓋骨をあける脳外科医は「不必要」な状態になる.
自分が年を取ったからではなく,「脳外科手術自体が不要の地域」ということになる.

脳外科手術自体の変化

一番大きな変化は日本全体で行った「未破裂脳動脈瘤の自然経過」のデータであろう.
半年から1年に急激に大きくなって破裂するものと,まったく5年経っても大きさの変わらない「非破裂脳動脈瘤」というものがあることが判明してしまったこと.
ということで,おいそれと「脳動脈瘤がみつかったから手術」にはならなくなった.
さらには,脳出血の手術適応の減少.脳出血で手術になった症例は2018年のデータでは10%未満であった.これは降圧剤のおかげで脳出血が小さくなったから.
さらには外傷.急性硬膜下血腫はほとんど手術がなくなった.ヘルメットの着用.車の安全性の上昇,工場の安全度の向上などで一般病院が救急で受けていた脳外科手術は著明に減少.サイバーナイフ,血管内治療,脊髄疾患などは増加から横ばい.
そんなこんなで,切って切ってきりまくる「サムライ脳神経外科」の時代は,この10年間で終了.自分の先輩に当たる先生方は,時代の変化について行っていないヒトは,出番もなくなり,経営陣になるわけでもなく,「昔は頑張っていた」というだけで,いわゆる「窓際族」に近い扱いになるであろう.なにか新しい分野に打って出ていくわけでも無く外来で血圧の管理,採血などが精一杯.ましや脳ドックでの危険率の説明などができる分けでも無い.自分が脳ドックをさせられていた時期は,「手術をバリバリするのがエリートの脳外科医」で,「脳外科にもかかわらず脳ドックをさせられる医師」は何でも屋で,一段下の医師のすることと思われていたし,その通りであった.自分はそのような立場であったからこそ,頭痛学会専門医,今年は認知症学会専門医も取った.高齢者の中に入ってきて,自分が正しかったことは分かった.バリバリ手術だけをやってきていた医師の凋落というか仕事の少なさというか人気のなさ,人望?のなさ,頼りがいのなさなどを遠くからみていると,自分は時代の波に乗って先に進んでいるが,「武士社会の終焉」と共に消えていくサムライ達をみるような気分になる.それが時代の流れなので致し方ない.

医師としての今後の5年はどうするか.

1)体力,視力の低下
夜中に起きて,緊急手術ができなくなった.体制だけでなく自分の身体機能の話.
病院の体制,患者の減少,まあ昼間に多くの仕事をしよう.
時間外手当の減少をどうカバーするのか.

2)脳外科外来の受診者数の確保にはどうするか.
(1)患者の要求に応える.
頭痛のヒトのMRIを撮って,今までの脳外科医なら,
「手術しないといけない病変は無いので脳外科としては正常です」と断っていた.
それで,その脳外科医は患者の悩みに対処できていたと思い込んでいた.
頭痛の原因は一切不明のままである.
他の誰か,別の医師が診るのだろうと無意識に信じていた.
「手術する病変が無い」というのと「頭が痛い」にはある意味,全く関連性がない.
以前,夜間に痛くなる群発頭痛のヒトが救急搬送されてきていた.その人に「昼間来るように」などと記載してあったカルテもみたことがある.夜間に出やすい頭痛は何なのかなどは,当直で診療していた医師数名は何も考えていなかった.夜間にCT3回,MRIを2回撮っていた.画像が正常だからその頭痛は問題無い,死なないから問題ないという姿勢であったのであろう.脳外科医,整形外科医,内科医などには「知ったこっちゃない」と思いながら夜中に起こされて診療していたのであろう.自分のモットーの一つの「No knowledge, No Answer」を地でいく話であった.それらに対処できるようになれば,患者の満足度も上がるし,患者数は増える.手術は減っていくのだから,「頭痛」に対してロキソニン,カロナールしか知らない様では今後,困るであろうと思っていた.
3)万病息災に備えて,共に老いる.
まあ,40年ぐらい前までは自分も日本全体も若かった.もちろん,2000年にできた介護保険などはまだなかった.医療保険で「病気,怪我をなおしてまた社会復帰」が日本の医療の目標であった.それが,今は,「介護医療院」とか2019年の「認知症大綱」とか,高齢者の介護に全戦力を投入しないといけない時代に変わった.それにあわせて全身管理が出来る医師に変えていかないと,家族からの信頼は得られない.「脳だけ診させてもらいます」などは全く家族,親族からのニーズは全く満たしていない.

4)自分が年を取っても診れる特殊疾患を専門にする.
自分がやってきた特殊疾患を手技も含めて,一通り出来る様になりたい.
1,2回みて出来る者ではないので,今後はそれを極めたい.
老後の楽しみでもある.

自分の働いている病院の行く末

人口が減っている中で,病院の収益を「救急」を中心に置いているのは極めて危険.
要は,マグロ船団が,一匹100万円の天然マグロを捕りに行くような,ある意味,当たれば大きいが,はずれれば燃料代,人件費も出ないという「ばくち」の様な医療は,「人口が増え続ける,若い社会」なら成り立つが,現在では考えたらいけない.
それよりは,確実に稼げる「ハマチ,牡蠣,エビなどの養殖」にシフトした方が確実,
もう少し具体的に言えば,一日の点数が60000円になる救急患者よりも,確実に20000円を稼げ出せる寝たきりに近い患者群を3人以上継続的に入院させていた方が,収益が上がる.救急は常に体制を整えていないといけないので人件費などが大変.それよりも,介護医療院などをバックに抱えて,医療と介護と両方で収益をあげて,高齢者達が天寿を全うするまで,「すべての医療関係の費用」を,「自分の病院の収益化」することが現状の喫緊の課題である.
家族も,「お金さえだせば,最後までみて貰える」ほうが,急な時期だけみて,次から次へと放り投げられる急性期病院よりも,頼もしく思うのは当然.高齢者ばかりなので,当たり前である.早く舵を切った方が良い.手術する外科系の病院など不必要になっていく.

まあ,自分の最後のやりたい仕事だけを選んで,やっていこう.
今の結論は「自分は,自分の状況に応じてやらないと行けないことは全部やった」
あとは自分の力を活かせる仕事をしよう.

 

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