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地域医療研修医のための脳外科病棟カンファレンス 10回目,2018年10月22日

DarkoStojanovic / Pixabay

今回は,研修医の先生に慢性硬膜下血腫の手術に入ってもらったので,
その症例の検討と,その症例の後で来た,被殻出血の手術のお話をした.

本日の症例1 90才代 右慢性硬膜下血腫

症状は,省略.
内科の先生からの質問.
大きな慢性硬膜下血腫の真ん中の部分に層状にhighの部分がある.
それは,多房性で分かれているのではないか?という 当然の疑問.
そのhighの部分は全体の血腫被膜の中では水平断では,真ん中よりやや外の部分に
部分的にある.確かにその部分は上下に分かれている.
しかし,後方にはそのhighの部分はない.
要は,完全に被膜が前後に出来ていない.

本当の多房性の慢性硬膜下血腫は存在する.
内視鏡で内側の被膜をopenしたりと
操作が必要なものもある.
しかし,大抵は,湖の全面に氷が張ることがなかなか無いように,というか
氷がはった,その下に,もう一層,別の氷の層が湖面全体を覆うことが無い様にというか,

そもそも,慢性硬膜下血腫の被膜はフィブリンなどの膜で,かさぶたが一番
近いと思われる.患者さんには,「硬膜の下にもう一層,膜ができてその中に血液がたまっています.牛乳を温めたら膜ができるような感じの蛋白の膜で,風船の中に血液が入っている感じ」と説明しています.
牛乳を温めたら,コップ全面に膜ができるようでも,どこかに隙間はあるもの.

一部は交通していることが大半.
ということで,内部の中間の被膜を破らないと
慢性硬膜下血腫が縮小,吸収されないということはない.
均一な大きな慢性硬膜下血腫の場合は,チューブを留置だけでも全く問題なく,血腫液が
全部排液されることが大半.
しかし,一部に層のような膜がある場合でも,
何回か洗浄したら凝血塊も排出されて,チューブを留置したらうまくいことが大半.
と言うようなお話.

これは研修医の先生と一緒に行った.
穿頭するときのドリルの感触など,一つずつがお勉強です.

本日の症例2,40才代 被殻出血

日本は,1960年頃は脳卒中の60%が脳出血だった.
今は全体の20%を切っていると思われる.
その大きな理由は高血圧のコントロールができだしたこと.
さらには1993年にアムロジン,ノルバスクが発売されたから.
半減期が36時間と,一日一回の内服でよくなって,劇的に時代が変わった.
減塩も大きく関わった.減塩で血圧が下がるヒトは高血圧の半分.
そんなこんなで,脳出血は著明に減少.
今の脳出血の話題は人口が増えた高齢者のアミロイドアンギオシーによる
皮質下出血,それの局麻での内視鏡的血腫除去術である.

それでも,今までも,
時に40才代の大きな脳出血が運ばれてきて,
手術をしたことがある.
その人達の特徴は,高血圧は未治療,肥満.

研修医の先生へのお話なので,脳出血の頻度のお話から.
被殻出血が40%,視床出血が30%,後は小脳,脳幹,皮質と皮質下が10%程度と
一般的な話.
被殻出血が全体としては一番多い.

今回も,上記の条件を持った方が,救急搬送された.

自分は,被殻出血開頭術で硬膜を開けた後,今まで3個のアプローチ法を学んできた.
血腫が脳表に近ければ,経皮質アプローチで,一番血腫に近い脳表から直接はいる方法.
次は,Sylvius裂をあけて,前頭葉の島回を露出させてそこから入るtransinsular approach.
この方法が一番教科書としては載っている.
もう一つが,皮切の部位から,考え方から何もかも異なる,
trans-middletemporal gyrus approach.
これは,頭位は横向きで,耳の穴の上方にコの字に皮切をくわえて,側頭筋ごと下方に翻転して四角に開頭.中側頭回をだして,そこから,上方に入って行く方法.
この時,白質を切って行かないといけない.途中でSylvius裂が出てくるようでは間違い.
上側頭回は記憶に関与しているので,必ず中側頭回から入る.
これは大阪にいたときの上司から教えていただいた方法.
まあ,血腫の位置で,手術方法は選んだら良い.

7 cm× 6 cm × 3.5 cm と結構,大量だったので,Sylvius裂をあけて,
島回から入って血腫除去.
血腫は術後のCTでは,ほぼ全部 取れていた.
血圧は来院時から,250程度であった.
嘔吐を繰り返したら,胃液を誤嚥してメンデルソン症候群で急性化学性肺炎からARDSへ移行など,あまりに大きな出血の場合は「出た血腫を取ったら治る」などの
甘い説明は全く出来ない.
手術前の説明も「機能予後改善のためではなく,救命目的です.
その意味は・・・・・」と延々とご家族には説明が続く.
また,「脳出血などは,身体にものすごいストレスなので,胃粘膜に大量に穴があいて,潰瘍になり吐血する」などの説明は,お約束.
これを最初に説明できていないと,またPPIなどの投与ができていないと,
「脳出血が何で吐血するんや」と怒ってくる親族,ご家族が居られます.
次は,気管切開です.

※気切の念のためのメモ
1)古典的な切開法
輪状軟骨だけが,輪状に全周性に軟骨がある.他の甲状軟骨などは,後面に軟骨がない.
だから,フルストマックの時は,輪状軟骨を押したら食道を押さえることができる.
それで,クラッシュ挿管となる.
「喉頭」の長さは,5cmぐらい,口腔内から気管までの間.
喉頭のメインの構造は輪状軟骨で,上に甲状軟骨がある.
声帯は,甲状軟骨の上端ぐらいの裏側にある.
気切の皮切はどこか.
自分が習ったのは,輪状軟骨下端と胸骨上端の真ん中のレベル.
ある大学の本では輪状軟骨直下,他の大学の本では輪状軟骨下端から1-2cm下.
直下では甲状腺が出てくるので,自分は少し下のほうが良い.
気管は輪状軟骨の部位が一番狭い.
気管を切るのは,第3軟骨が中心.ある本では2-3,別の本では3-4気管軟骨を切ると記載あり.
自分は,2/3間の気管を切って外側を下方に切っていた.
1/2間を切ると,上方が狭いので気切後に狭窄がくることがある.
広い3,4間がメインの開窓部位としては,良いと考えている.

経皮的気管切開法は,やせていて,すぐに気管が触れるヒトなら
最適である.以前は頼まれて8日間に5例行った記憶がある.

今回は,はじめから気管カニューレの長さの調節できるものを準備していた.
症例を選びながら行うのが大事.

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