脳外研修医カンファ

研修医のための脳外科カンファ 35回目 2019年6月11日

症例1)70歳代 dural AVF(T-S sinus 移行部)からの脳出血

右側の後頭葉,側頭葉部の皮質下出血.急に左側に倒れるとのことで受診.
来院したら1分間のけいれんがおきた.
CTでは右側頭葉後方の皮質下出血,3 cm程度.
MRIでは,血腫周囲に1 cm弱の小さな出血が10個近くある.
それは出血にしては正円なので,おそらく静脈のうっ血での拡大をしめしているのかも.
脳動脈奇形なら,nidusそのものが写るがそれがない.
しかし,MRA(MR脳血管撮影)では,右にS状静脈洞が写っている.横静脈洞部にもモヤモヤした血管が何本かある.
これは,硬膜動静脈瘻であろう.
症状は比較的軽いが,脳表の静脈が逆
DSAをしたら,上記と診断.
経静脈的な塞栓術をしましたと返事あり.
左側の横静脈洞が綺麗に通っているので,
右側のsigmoid sinusをコイルで完全に閉塞させていました.
硬膜上の瘻孔(fistula)部分は圧が上がって閉塞したのでしょう.
通常のDSAではその部分は写らなくなっていた.
瘻孔はなにかの拍子に後天的にできてしまう.先天性の脳動静脈奇形とは全く別の病態である.

症例2) 70歳代 右慢性硬膜下血腫

2ヶ月前に,山で作業していて,滑り落ちて肋骨骨折で外科に入院歴あり.
「法面(のりめん)で滑って,木の株に当たった」
「法面でこけて,でんぐり返りみたいに落ちていった」などと聞くことがある.
この「のりめん」と言う単語は,山仕事をする人達がよく使う.
まあ,「傾斜した斜面」ということに使っている.
実際は,自然の斜面とは区別して用いるらしいが,実際はどこまで区別しているか不明.
山の中の病院にきて,はじめて自分は知りました.

まあ,2か月後に右上下肢不全麻痺と単語がでにくいという典型的な経過で受診.
研修医の先生と手術をした.
慢性硬膜下血腫の基本知識:出血源は架橋静脈.架橋静脈は脳と頭蓋骨をつなぐ静脈で,脳の血液を骨面までだしていくもの.それが回転加速度などで骨は早く動くが,脳脊髄液に浮いている脳は,一瞬遅く動く.そうすると架橋静脈が引っ張られて,わずかに出血する.それは,一旦すぐに止血する.また,クモ膜も破れて脳脊髄液がその血塊と触れて,少量の出血を薄める.受傷直後のCTで写らないのはそのため.

静脈からでる.クモ膜が破れる.髄液がそこに入るなどの条件がそろって初めて慢性硬膜下血腫が出来る初期機転が動き出す.その後は,出た血液がかさぶたのような蛋白性の被膜を形成する.そこへもう一度,少量の出血がでて,被膜からも初期のかさぶたのように易出血性でにじんだりする.そこへは白血球なども遊走してくる.被膜も段々厚みをまして,血管が入り込む.外頚系から硬膜を介して入り込む事が多い.
出た血腫液は,線溶系が働いて又溶ける.要は,たんこぶがいつまでも硬くないように血腫塊が自然に溶解する.ということで,血腫腔内の血液は,凝固系も線溶系も活発な特殊な環境である.その結果は,慢性硬膜下血腫から排液した血液は「二度と固まらない」のが基本.時々,最近にじんだ血腫成分の小さな塊がでたりするが,それは排出させておかないと溶解して「濃い血腫液」になるので,良くない.
そんな話をしながら,研修医の先生と手術をした.

※研修医の先生方の頭皮縫合で気がついたが,器械縫いで持針器で持ってひっぱている糸に,もう一方を回らせて,その回った糸を引っ張って閉めていくわけで,持針器で持ったほうの糸をいろんな方向,特に術者側の空中に引っ張る,要は自分向きに引っ張ると必ず緩む.しかも両手を術者側に引っ張ると結節点が空中に一旦浮くので,全体が緩む.持針器側の糸は大げさに言えば横に引っ張らないとダメである.
地域研修の先生方がきつく閉める前に術者側に結節点を引っ張り上げて,そのまま両手を外に下げて縫合すると,結節点は垂直に下に落ちるので,間違いなくメスで切った割面の上に結節点がくる.そうなると縫合はできるが,術後の抜糸が大変.遠い記憶で,ノッチというか,結節部位が外側に来るようにするのも意識しないと最初は難しいと判明.その後は説明も楽になった.研修医の先生もあっという間に理解して,一針で説明すると,次からは結節部位を一番外側に持ってくるように手を動かしてくれる.
まあ,自転車に乗るようなもので,あるいは手品ができるようなもの.ある程度,練習して出来るようになれば,身体は無意識に動くもの.
無意識に動くようになったものを,意識的に説明するのも上達の基本であろう.

症例3)50歳代 視神経炎,前床突起内液体貯留

急に右目が「しろい霞がかかったように見えなくなった」と来院.
MRIでは,右視神経の通り道の前床突起の部分にMRIでは液体貯留あり.
もともと副鼻腔炎が強く,抗生剤などを耳鼻科で投与されていたらしい.
4年前のMRIでも同じ部分にT2で液体がある.同じ形.
副鼻腔炎の波及で前床突起内粘膜肥厚して,液体がゼリー状に固まったようにみえた.CT骨条件3方向のshin sliceでも骨内に限定している.左の前床突起内にはairが入っている.と言うことで,「球後視神経炎」であったような.

やや診断に難渋した.

症例4) 60歳代 転移性脳腫瘍

11年にわたる多くの化学療法の後,腺癌が脳に転移してきた.
今を時めく,オポジ-ボなどでも加療している.
それが造影MRIで,転移があるのではないかと相談をうけた.

通常の転移の場所は,脳表の直下で,大脳皮質に血管が入り込む部分.
要は脳表の大脳皮質には細胞が厚さ5 mm程度あるが,そこに入り込むために,一段,血管は細くなる.その部分に転移してきた細胞が引っかかり,増大をはじまる.
今回は,中脳黒質に 5 mmぐらいのがあるように見える.極めて稀と思う.
症状は全くなし.黒質からのドーパミンが5%を切ればパーキンソン病様の症状がでるだろうが,通常はまず,心配無い.
方針は,メタと分かればガンマナイフ,サイバーナイフであろう.

 

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