看護学科での脳外科授業内容

大学で講義を今年もしました.その2

脳卒中についての講義

多くの人が知らない真実をぶちまけるのではなく,学生さんには必要な知識を.

基本の基本

1)脳卒中の種類はどんなものがありますか

古い歴史は不要.
今は脳卒中は3種類しかない.
2018年の日本のデータでは,
脳梗塞 75%
脳出血 20%
くも膜下出血 5%

ものすごく脳梗塞が増えた.大昔の脳卒中はほぼ全例が脳出血であった.
まあ,これからの学生さんには社会人になって,時代の変化と共に生きていくので,自分が生まれる前のことより,今のことを覚える方が良い.
そして,「私たちの若い頃は,脳梗塞が大半だったけど,今は・・・・・」と言う会話になる気がする.

以前医学部上級生の学生さんに,脳卒中には何があるか質問すると,「アテローム性と・・・」と一生懸命答えようとする.
こちらは「脳卒中全体としてはなにがあるか?」聞いているが,初めから「脳卒中とは脳梗塞のこと」と覚えていたような.時代の流れなのか,彼が知識が不十分なのか.

2)脳出血 原因,部位 治療法

(1)部位:教科書的には脳出血になる部位は,どこですかという質問がある.
ざっくりと言うと,
被殻(ひかく)40%
視床(ししょう)  30%
残りの 脳幹(主に橋),
小脳,
皮質下が各10%ずつ.

(2)原因
高血圧が大半でした.しかし,血圧管理がすすみ脳出血の発生数は減少.
さらに脳出血の大きさも小さくなった.
出血量が少量になった理由も,降圧剤の普及のおかげ.特に1993年にでたアムロジン(半減期36時間)がでてからは,コントロールは本当に楽になった.
高齢者の出血は,大脳表面の小血管にアミロイドが沈着してからの皮質,皮質下出血が増えた.しかし,高齢者は脳がある程度,萎縮しているので,意外と症状は軽い.

(3)治療法
脳出血も,ほとんど手術しなくなった.血腫の大きさが小さくなったことと高齢者に多いのでまずまずの大きさでも,脳萎縮のおかげで「脳の腫れしろ」があるので,あまりしなくなった.そんなこんなで脳出血のオペは脳出血全体の10%ぐらいしかしなくなっているのが現状.全麻下での開頭血腫除去術か,小開頭での神経内視鏡を用いての吸引術になる.
非手術の保存的加療
初期治療は,
3-1. 降圧剤の投与
脳出血による反応性の血圧上昇,徐脈などに対しての「降圧剤の投与」持続静脈注射か,単回の静注か,可能なら内服薬も追加する.
3-2,点滴の内容としては,さらには止血剤を追加.アドナ,トランサミンはほぼルーティンにいれている.
3-3.さらには周囲の正常脳が圧排されるので,グリセオールなどの高張液による周囲の液体を引いての脳浮腫対策.
3-4.さらには,クッシング潰瘍とよばれるものへの対応.要は「潰瘍の薬(PPI,H2ブロッカーなど)」も必要.家族には,「脳出血は身体にストレスなので,あっという間に胃粘膜に穴があく,表面に大量にあく.それらから一気に大量に出ることがある.以前はそれで命を落としていた時代があった」と説明している.もちろん,頭部外傷での頭蓋内出血でも大量の吐血をすることがある.
3-5. リハビリ.これが主体.というかこれしかない.

(2)脳梗塞 頻度,原因

1.頻度

毎年脳卒中になるひとは130-140万人,そのうち,75%が脳梗塞となると年間100万人が脳梗塞になる.

2.原因

大学2年生の学生さんなら,ラクナ梗塞(穿通枝梗塞),アテローム血栓性梗塞,心原性脳塞栓などの単語を知っていたら100点であろう.

3.「一過性脳虚血発作」とは何か.
これは50年前から学生のテストには毎年毎年でるもの.30年以上前の自分が学生の時にも出た記憶がある.その当時の自分は,なぜ一時的に血流が落ちて,もとに戻るかが分からなかった.
20-30年前の説明は「一時的に小さな血管に血栓ができて,それが又溶けるために,症状が短期間でて,もとに戻る」というあっさりしたものであった.

原因も,今は多岐にわたる.
それと,MRIが頻用されだして,大きく変わった部分がある.
TIAは,一時的な麻痺,失語,目が見えにくいなどが生じても24時間以内に全く元にもどる.初期の定義では,画像上も異常がでないというのが常識であった.
今では,MRIを撮ると,ごく小さなラクナ梗塞が出来ていることも,まれではないと判明.
ということで,「24時間以内に完全に症状が元に戻る」ということと「画像上,異常がでるかどうか」は全く独立して考えている.

ということで,TIAの症状がでたら,抗血小板剤を開始するというのが,正しい加療.

実際は,3-5人に一人が大きな脳梗塞になる.しかも短期間になりやすいとされている.

4.tPAの治療
これは日本では2004年あたりに,認可された.
最後に元気だったところから3時間以内に静注+点滴.
それが2012年には発症から4.5時間以内に延長された.
実際は,早ければ早いほど予後は良い.社会復帰まで良くなったヒトは,2時間20分以内であったなどのデータがある.
2019年3月にまた一つ適応範囲が広がった.
それはdiffusion/FLAIRのミスマッチ.要はdiffusionで出ても,FLAIRにまだ出ていなければ,tPAの使用を考慮しても良い.となった.
「してもよい」という文言になっている.
以前の私の知識ではFLAIRが画像にでるのは3時間後と覚えていた.
要は,時間が不明な時に,これで考えるということ.
MRA(MR脳血管撮影)で,中大脳動脈が詰まっていたりすればtPAを使っても良いであろう.

5.一般的な治療
点滴.フリーラジカルスカベンジャー.
問題は,抗血小板剤か抗凝固剤のどちらか.
ラクナ梗塞,アテローム血栓性梗塞なら抗血小板剤.
心原性脳塞栓なら,抗凝固剤.
それなら頚動脈分岐部や大動脈からの脳塞栓ならどうしますか.
「流れが速いところなら,抗血小板剤」が基本なので,抗血小板剤となる.

6.予防
危険因子のコントロール.
抗血小板剤,抗凝固剤の内服.

(3)くも膜下出血: の原因と治療

くも膜下出血の10人中9人が脳動脈瘤の破裂によるもの.
多くの知見が集まってきている.
「脳動脈瘤破裂による」「くも膜下出血」と二つの病名がある.
まず脳動脈瘤の再破裂防止の手術が必要.
全麻下での開頭ネッククリッピングが古典的.
今は,血管内治療による脳動脈瘤のコイル塞栓術と半分ずつ.
一長一短.
その治療が済んだ後,「くも膜下出血」の治療が始まる.
必ず,でてくる病態は4-14日目に生じる.
赤血球が血管外にでて,膜が破れるとヘモグロビンが外にでる.
それが4日目ぐらいから生じ出す.
米国の教科書は5-10日目に生じるとされている.
その赤血球からでた成分が血管壁にへばりつくと,血管平滑筋が
収縮して,その先に血流がいかなくなる.それを「脳血管攣縮(れんしゅく)」と呼ぶ.
血管を収縮させないようにする薬を投与.
あるいは,赤血球を含んだ脳脊髄液を外へどんどん排液してしまう.
4日目から溶解していくなら3日目までに,赤血球を外へ排液してしまう.
発症7日目が一番状態が良くない,最低,14日間は「脳槽ドレナージ」を留置する.
以前は「脳血管攣縮」で30%ぐらい死亡していたのが,今では5%ぐらいまで低下している.もちろん,脳梗塞になって麻痺が残ったりもするが.
対策は,triple Hとか古典的だが,いまだによく行われている.
しかし,19才の大学2年生に「hypertension, hypervolemia, hemodilution」の説明をするのは,やり過ぎ,不必要であろう.

さらに発症後,一ヶ月後ぐらいにおきる「正常圧水頭症」あるいは「交通性水頭症」がおきる.くも膜下出血直後の血液による髄液の吸収部の閉塞による水頭症とはことなる.10-15%ぐらいに発症.脳室腹腔短絡術などが治療.まあ,くも膜下出血が一番,脳外科としてはばたつく.

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