脳外研修医カンファ

研修医のための脳外科カンファ 25回目 2019年2月21日

細々と続いている,カンファレンス.
火曜日の午後16時半にできることもあれば,用時が入って木曜日になることもある.
そんなこんなで,2月19日の予定が21日になりました.
今月,まわってきた「地域医療」研修医は3名,そのうち1名は2か月コースで,もうすぐ終了.

本日の症例1  90才代 第1,2頚椎骨折

連休中に首を痛めたか,首を動かさなくなって家族が車椅子に乗せて連れてきた.
動かない原因は頚椎捻挫との見立て.
CTを取ると,C1, C2が折れている.折れ方も特殊.

環椎破裂骨折 (Jefferson 骨折)
前弓と後弓の両方の骨折
基本的には,骨の弱いアーチの前弓の2カ所.後弓の2カ所の合計4カ所で折れて,
アーチが前方,後方の外れて,外側塊は外側に吹き飛ぶ感じ.
骨折の形としては,前方,後方,外方に転移するので脊損は起こりにくい.
基本:C1には椎体がない.
受傷機転としては,頭のてっぺんから落ちる時に生じる.
治療は,可能ならハローベストの外固定3か月.
それで不安定なら内固定の手術.
大半は,外固定で何とかなることが多い.
年齢が高すぎて,やりようが無いときもある.

さらに,軸椎歯突起一部が後方に離れていた.
パッとみて,I 型と判明.

軸椎骨折の中の歯突起骨折
Anderson分類:
I型:歯突起上部の斜めの骨折
II型:歯突起と椎体の結合部の骨折
III型:椎体に及ぶ骨折.

ということで,ハローベストを着けると,おそらく胸郭抑制で肺炎,
重すぎて寝たきりになりそう.
フィラデルフィアカラーをつけて,入院.
翌日にはベッドの外へ自分でそれを放り投げて寝ていた.

鎮静して頚髄MRI を.
C1,C2あたりでものすごく後屈,骨折部には液体がたまっているので,
それが引けば,圧迫は少しはへる.

自分が過去に経験したのは,VAが血管溝を通る部分で圧迫されて
5日後に脳幹梗塞が起きたヒトが居た.
MRAでは本症例は大丈夫であった.

本日の症例2 60才代 脳出血後の症候性てんかん

2年前に左被殻出血,右不全麻痺と軽度の失語が残った.
朝,急にしゃべりにくくなって意識低下.
1時間半ぐらいしてだいぶ元気になって,電話して救急要請.
来院時はだいぶしゃべれるようになった.
CTでは新しい出血なし.MRI でも新しい脳梗塞無し.

「一過性脳虚血発作」の症状の中には,というか定義の中には「意識障害」は
入っていない.
ということで,2時間すればもとに戻る状態はなんですかということになる.
答えは,「脳出血後の症候性てんかん」
念のために入院,問題なければ翌日退院パターン.

全く同様の急患が一週間前に救急搬送されてきていた.
その人も60才代のヒト,左被殻出血で右麻痺は残存.失語(運動性)はほぼ改善.
リハビリ後,社会復帰して発症から1年後に倒れて,別の病院に救急搬送された.
そこは翌日,元気になったのでなにもせずに退院.
症状が消えたため,良いのかなと思ったかも.
今回は,発症後7年目になるが,
今回が4回目の同様の症状と経過なので当院に救急搬送された.
その都度,上記の病院に一日入院しては,翌日退院していたらしい.

今回の,かわったことは,左手を突っ張ったとのこと.
「痙攣源」が右にもミラーイメージで出来たことを意味する.
すでに7年なので,出来たのであろう.
自分は,経過を聞いて,すぐに「脳卒中後の症候性てんかん」とわかりました.
それで,けいれんの頓挫薬の点滴と経口の予防薬を投与して,
3時間もしたら歩けるようになって帰宅.
もっと早く専門病院に来ていれば,診断がついていただろうにという症例.
上記の別の病院は,脳関係の医師がいない病院だったので,おそらく
「翌日帰れるのなら良いかな」と思っていた節がある.

脳出血後に,1年とか2年とか経過してから「てんかん発作」が出来る理由は,
人間の脳の中途半端な可塑性のため.
出血で壊れた軸索の束は,残存した神経細胞から少しは成長して,つながるようになる.
そのときに正常なら下方に伸びていくべき軸索が,横の細胞からの軸索とつながる.
要は,脳表から脳幹に降りていくべき線維が,横にもつながる.
そうなると電気的に活動すると横の細胞も活性化する.
それが運動神経なら,電気的な回路が回り出して激しい間代性痙攣で,ガクガク手足を震わせる典型的な発作になる.しかし,回路が回るとショートしてしまい,電源が落ちる様に意識も落ちる.
いろいろな痙攣のタイプがあるのは,その回路の特徴による.
ということで,中途半端な損傷から中途半端な再生によるケイレン源の生成までには,
最低,3か月から半年,損傷部位によっては1年以上かかる.
中途半端な回路の興奮を抑えるのがけいれんの予防薬になる.
また脳梁を介して,反対側に「ケイレン源」が出来ると,病変側の,要は今まで正常であった側のケイレンが起き出す.それには年月がかかる.
もちろん,脳出血の場所によっては,ケイレンが起きない場所もある.
まず,視床,脳幹,小脳などは起きない.
脳表が障害されないと起きないと考えておくとわかりやすい.

症例3 80才代 特発性正常圧水頭症(疑い) 別件と判明

まずは,「歩きにくい.よく転倒する」というので紹介されてきた.
軸状断の写真では脳室が大きめ.
MRIの前額断を見ると,確かに円蓋部の脳回が圧排傾向.
別の医師が入院の段取りを.

尿失禁もある.物忘れもある.
しかし80才代後半で物忘れ,尿失禁のあるひとは多い.
特発性正常圧水頭症(iNPH)の一番の症状は
歩行障害だが,小刻みで不安定で,失行性,失調性歩行と言われる.
ワイドベースでギクシャク,フラフラした感じであるく.
物忘れは,どちらかというと「反応が遅い」という感じで,
易怒性などの純粋なアルツハイマー型などとは感じが違う.

尿失禁も併発するが,合併する率は一番低い.
タップテストは,よくわからないが19ゲージより太い腰椎穿刺針を使って,
針穴から,後に髄液が少し漏れるようにとのことだが,高齢の脂肪が一杯の人で硬膜外にどれほど脳脊髄液が漏れるのか不明.

しかも歩行テストは,椅子から立ち上がって,3 m先のポールを回ってきて座る.
その秒数が,髄液を抜いたら改善するかどうかが一番大きな検査.
何秒で回れますかというのがメインのテスト.
向きを変えるのが大変。椅子から立ち上がるのもふらつくなどが条件。

疑問の一つは,髄液を抜いて,どれぐらいで改善するのかという話.

テストの方法のガイドラインでは,「1週間以内に改善」と書いてある.
自分は4日目にテストをするようにしている.

以前,タップテストをして歩行状態が改善したので,iNPHではないかと紹介があった.
MRIを撮ってみると脳萎縮である.
どうやって,テストをしたのか患者さんに聞いてみると,
今日,髄液を抜いた.そして歩行テストをしたと話された時は,驚いた.
そんな,急に歩行が改善するとはとうてい考えられなかった.
まずは,画像が違うので話はそこまでで終了.
話を聞いたのが,「歩行テストの時は,まわりが頑張れ頑張れと応援するので,
10%以上早く歩ける」ので「テストで改善がみられた」と判定される.
よく間違えられる疾患は,進行性核上性麻痺,パーキンソン病などと書いてある.
L-P shuntをしても,まず症状は改善しないが,リハビリなどをするので,筋力は一時的に戻る.

今回の症例は,「膝を痛めてから,歩きにくくなった」とのこと.
歩き方は、脳脊髄液30 mlを抜いた前後で変わりがない。

参考までに水頭症の時の歩行は,
「開脚して一歩の歩幅が狭く,すり足,小刻み,不安定で,転回時に転倒しやすい.第一歩が出ない.」
それと,「号令,外的目的による改善効果が少ない」がある.
外的目的とは,何かものを乗り越えようとしたりすると意外と足が出る.
などがある.これはパーキンソン病の特徴とされている.
それがあまり無いということ.
小脳失調性歩行に近い印象.

話を良く聞くと,10年前から,急に意識がなくなって,転倒するようになった.
それを直してほしいとのこと。意識がなくなるのは一瞬とのこと。
心臓由来かてんかん発作かのどちらか。
ホルターをつけて調べたが、心臓由来では無いような。
抗てんかん薬を投与して,一旦退院になりました.

なかなか本物のiNPHにはあたりません.
自分はたくさん検査をしたが,今までシャントして良くなった人は,
2例しか経験していない.
多くの中から,本物を探し出すのは大変.

 

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