今回は,変わった症例が集まりました.
毎日毎週,ほんとにいろいろと疾患が集まると思う.
本日の症例1 30代 右前頭葉動静脈奇形
転倒して,頭部打撲.
CTを撮ると,打撲部直下の脳実質がなにか奇妙.外傷性くも膜下出血でもなく,
脳実質内にhigh denseの小さな点が2個ある.灰白質にしてはCTでhighにみえる.
よくわからない.第一印象はAstrocytoma grade 2 でした.
MRI をとってみると,3 cm強のAVMと判明.脳表にdraining veinがあり,
結構,nidusも複雑な形をしている.楔型に脳内まで結構入り込んでいる.
スペッツラーのgrade 1か2である.Eloquent areaでもなく,深部へのドレーンもない.
大きさが大きいかがポイント.
開頭で切除が正しい方法だが,切除面を入っていくと,結構深い.
術中のモニターもいるであろう.
ということで,大学病院に紹介になりました.
本日の症例2 80才代 外傷性くも膜下出血
階段の下で倒れているところを発見され,救急搬送された.
意識は清明.腰が痛いと言う.T2ーFat-SATの矢状断ではTh12のやや古い骨折がありそうだが,そこは痛くない.
手足の麻痺もなく,すたすた歩ける.
「自分は階段から落ちたことは無い」と強く主張.
話を何回か聞いても,「数年前にこけたことがある」と話をする.
しっかりしているのか,いないのか.
頭部CTでは,脳表に何カ所か,小さなくも膜下出血がある.
転倒した時刻のどれぐらい前までの記憶があるか聞いてみるが,
判然としない.
こちらの質問の意図が伝わらない.
逆行性健忘があることはわかる.
転倒,打撲などのどれぐらい前まで覚えているかで脳への打撃力の強さがわかるとされている.要は,直前のことまでは覚えていれば,脳への打撃はそれほどでもなかったことになる.
朝はご飯を食べたかなどを聞くが,この方の場合,全く違う答えが返ってくる.
フォローアップCTでは,慢性硬膜下血腫になりそう.
「早く帰りたい,帰りたい」と強く主張.
家族はその間に,介護保険の手続きを進めている.
こちらは「明日にでも帰りたい」と解釈して段取りを進めると,
「年内には帰りたい」と本人が話をする.
まだ2週間以上ある.拍子抜け.
80才代の認知症のヒトの時間間隔と,分単位で仕事をしているこちらの時間間隔は,
全く異なることを再確認.
ある意味,最近の脳外科診療で,もっとも多いパターンと思われた.
地方小都市での高齢者の実態のような症例.
本日の症例3 70才代 未破裂脳動脈瘤
頭位変換性めまいでMRIを撮ると,MRA(MR脳血管撮影)でAcomAに4.5mmの脳動脈瘤がある.形状もすこし凸凹.
聞いてみると,6人(7人?)兄弟中,2名がSAHとなっている.
高血圧,タバコの危険因子もあり.
日本の臨床研究では,AcomAに出来る物は破裂しやすい群にはいっている.
危険因子は,この方はいっぱい.大きさ,形状も危なそうな印象.
今まで,よく,破裂せずにいたものと驚いている.
年齢との兼ね合いだが,印象は「外科的治療をしたほうが良い」である.
一般的な説明をした.
最近は,「非破裂脳動脈瘤」という概念も出てきた.
一生,破裂しなければ,それは「非破裂」である.
高齢になれば,他の病気が出てくる.癌も出てくる.
他の疾患で亡くなれば,それは非破裂となる.
脳動脈瘤としての生命に対する危険度は相対的に低下するということ.
脳動脈瘤の手術を破裂前にすることは,50才代,60才代などの働き盛りのひとほど,
価値が高い.
80才代で脳動脈瘤が見つかっても,大半の場合,手術を勧める脳外科医はいない.
この方も,とりあえず,家族で相談してもらようにした.
大事な話,要は命の危険度が高い話の場合は,
兄弟が多いとか親族が多い場合,「少なくとも話は聞いた」状態に皆がなっていないと,
後々こまる.日本人は「仲間はずれ」になることを恐れる民族なので,
それぞれは責任は全く取るつもりはないが,
「聞いてなかった」と言う状態は嫌であるのが日本人のメンタリティーである.
昔からの「村八分」は嫌という感じか.
2年目の研修医向けのお話なので,一般的なお話をした.
自分の頭の中では,すでに,どの角度から入ってネックは比較的狭いので,クリップはかけられて,AcomAの穿通枝が見えるかどうかの術前, 術中の確認の向きなどはすでに見当は終了していた.ほぼ,問題無くできそうとの結論には達していた.
研修医には,脳弓などへの穿通枝が大事で,両側の梗塞になると記銘力低下がくるなどは
追加で説明した.