脳外研修医カンファ

研修医のための脳外科カンファ 31回目 2019年5月7日

2019年4月は研修医が地域研修に来なかったので,脳外科疾患のカンファレンスもなかった.5月になって1名回ってきたので実行した.久しぶりの感じ.

本日の症例1 60才代 充実性小脳血管芽腫

一ヶ月まえに左にたおれて転倒.その後,食欲不振で内科に入院.
ふらつきもあるのでCTを見ると小脳にものがある.ごく一部にcysticな部分も少しあるような.内科からの依頼.単純CTからなら第一印象は,グリブラ,メタなどであろう.しかし境界が明瞭にも見える.
そこで造影MRIをとってみると,答えが判明.
充実型のhemangioblastomaであろう.T2☆では腫瘍内に出血もある.
これは大変.3×4 cmはある.脳幹側に腫瘍面が露出している.
通常のというかよくでてくる,cystがあって内部に1cm弱の血管芽腫の実質があるものとは異なる.
以前は2cm弱の充実性腫瘍が3個ぐらいあって,サイバーナイフをあてて小さくなってからオペした症例もある. しかし本症例は大きい.しかも腫瘍内に出血もしている.時間的余裕は,あまりない.まずはDSAをして,どれだけ血流が豊富かをみてそれからであろう.MRAでは,塞栓術が出来るような血管は写っていなかった.いろいろ考えても大手術になるのは間違いない.一塊に切除しないと断面から延延と出血するのは間違いない.10時間はかかるかも.
開頭後に腫瘍実質に止血効果のあるものを注入できれば,なんとかなるか.
全く根拠はないがフロシールなどをいれたらなんとかなるか?

本日の症例2 80才代 左側頭葉皮質下出血

高齢者に多い皮質下出血.
2日前から頭痛,嘔気,意味不明な行動異常がでて,家族とともに独歩受診.
麻痺はない.左前頭部,前額部が痛い.最初は帯状疱疹後の三叉神経痛かと考えたが,
MRIをとってみると左側頭葉の中側頭回を中心にした後方の皮質下出血.
Wernicke型の失語であろう.
なにか話をしてくれるが,単語自体もあまり種類がでない.
失名詞も結構ある.
CTでは耳孔の上部から後上方にかけての出血.
これは全麻で開頭血腫除去をした.側臥位だったので,光学式ナビを用いてみたが1 mmもずれていなかったので,うまくいった.
しかし失語自体は結構残存.
手足の麻痺がないことと自分でトイレに行けることなど,独居で無ければ何とかなるので,
独歩退院へ.
研修医の先生は「今年で2年目」とのことだったので,脳出血の部位を聞いてみたが,
すぐに名前がでるのは,被殻,視床まで.
その後は,しばらく考える.これはほぼ全員のパターン.
いつも簡単に教えているのは,被殻が4割,視床が3割,後の10%ずつを皮質下,小脳,脳幹と説明している.実際は微妙に違う.特に高齢者になると皮質下出血が多くなり,それは後頭頭頂葉が多いなど,あまり詳しく言い出すと教科書を読んでもらうことになるので,症例提示の趣旨に合わなくなるので,導入部分だけ.

への圧迫の少ない3 cm以下の血腫には開頭血腫するだけの意味が無いと説明している.

本日の症例3 80才代 左後頭葉皮質下出血

上記の続きで,皮質下出血の画像を供覧.これは3月末に一回提示.
意識障害と右麻痺で救急搬送された.
このヒトの問題は,被殻近くまで大きな血腫は及んでいる.
CTでは,大きな血腫でniveau (ニボー),水平像,気液界面のように見える.
実際のニボーの意味は,液体とガスの境界面を言うので,
血液の赤血球と上清の成分の境界を何というのか,
とにかく,血腫全体は9×5 cm 以上あるがCTでは下半分がhighで上半分がlowに見える.
新鮮な出血であろう.時に慢性硬膜下血腫でも上半分が黒く見えて,下半分が白く見えることがある.非常に大きな出血なので開頭血腫除去術の適応でした.皮切は7 cm ,開頭は5 cmで,なんとか取れたが最後に出血点というか,一番奥の穿通枝から大量に出血.なかなか通常の吸引管では出血点が見えない.そこで内視鏡での血腫吸引術用の購入した「水がでて洗浄できる吸引管」を使って出血点をはっきりさせて,なんとか止血ができた.一部が血管奇形のようにみえて提出したが,アミロイドアンギオパシーで合っていた.
翌日のCTでは,ほぼ全部摘出できていたが,麻痺も失語も右同名半盲も残って大変とおもっていたら,麻痺もなく会話もそれなりにできて,自宅に帰ることになった.
フォローのMRI,CTではそれなりの欠損部があるようにみえるが,神経学的に詳しくみたら所見はあるのだろうが,アルツハイマー型の特徴で「とりつくろい反応」があるので,
なんか日常は穏やかに過ごせそう.

ところで,一般人さらには他科の医師,他の医療従事者のなかには,脳出血を「風船が膨らんだようなもの」と解釈しているひとがいる.そうではなくて「土砂崩れみたいなもの」と自分はいつも説明している.風船なら中身の空気をぬけば,周りの圧迫はとれて,症状も,もとに戻るような印象になる.血腫を全部除去したのなら「症状はもとに戻るのではないか」と思いたい.麻痺も完全に治らないのは,手術が下手だったからかなどと思っているヒトが中にはいる.その理屈は慢性硬膜下血腫で正常脳と骨の間にできた被膜内に血液がたまり,脳を圧迫している状態の説明としては極めて正しい.
脳内出血は土砂崩れとか火山の噴火による溶岩が固まったもののようなもの.その塊をのけたら,その下につぶされた民家,人々が皆正常なら,それが一番だが,血腫除去の目的はそのやられた爆心地を助ける訳ではなくてその周囲の正常脳を圧迫から解除するのが目的である.だから少量の出血で周囲の圧迫が少ない血腫例では手術をしないのが正解となる.
この部分を最初に説明しておかないと,手術をしてもなかなか患者家族の満足度は上がらない.「目標は救命です」とこちらが説明するときは「麻痺が残ろうが失語が残ろうが,意識が戻らないかもしれないが,とにかく,当面の心臓を呼吸状態を保つ」ことが目的.と説明をくわえないといけない時がある.

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