今回も3例,PSP, dural AVF, 延髄梗塞
「代」と「台」の違いをもう一度.
「70代」「70才台」と使う.
「代」はそれだけで年齢と時代を表す漢字.
それ以外には,ほぼ使わない.
「台」は助数詞を伴って使う.
年齢はどちらも表すが,「台」はそれ以外のものも表す.
まさにテーブルの上の「台」なので,
それで「70才台」となると70-79才の間の台の上に乗るというイメージ.
症例1 70才台,PSP 進行性核上性麻痺
これは隠れている.脳外科には意外に受診している.
その理由.
それは60才台で発症するヒトが多い
初発症状が,「歩行困難」「容易に転倒」「物忘れ」「人格変化」などである.
2,3年の経過で徐々に進行.
それに「尿失禁」が入る.
歩行困難で容易に転倒して,
外傷性SAH, 薄い急性硬膜下血腫,脳挫傷などで
救急搬送されてくる.
この人は,転倒して救急搬送されてきた.
あるいは,脳萎縮で画像では「脳室が大きい」となると
症状は「正常圧水頭症」疑いで,脳外科に紹介されてくることもある.
それに「人格変化」などもはいる.
この方は,外傷性SAHから慢性硬膜下血腫になりかけて,改善して独歩退院.
さらに,段々,人格変化,上下の注視障害がでる.
さらには,「仮性球麻痺」で嚥下困難,不顕性誤嚥などが起きる.
さらには失調,失行で「頚部後屈」が起きる.
「開眼失行」で目が開けられなくなる.
さらに進行していくと有名な脳萎縮のパターンが出てくる.
画像では,MRIの矢状断で,中脳被蓋の萎縮のために,
側面からみた,ハチドリの様な形の画像が見える.
有名な「ハミングバードサイン」である.
脳幹の中で橋の萎縮はあまりない.それがハチドリのお腹,
萎縮した中脳被蓋が頭,前に伸びる.
パーキンソン病みたいに振戦もはっきりしない.
前屈みでもなく,「姿勢が良い」
筋強剛もない.
それで,上記の症状のヒトは,さらに症状が進行すると,
仮性球麻痺による嚥下障害,肺炎,さらなる人格変化などがある.
さらには開眼失行,特に頚部後屈,上下方視困難などが追加されてくる.
さらには左右差がない.メネシットなどのパーキンソン病の薬が効かない.
その時点でも気がつかない医師もいる.
進行状態としては,歩行から車椅子,さらには寝たきりになっていく.
膀胱持続カテーテルも必要になる.
そんなこんなで「進行性核上性麻痺」の患者さんは脳外科に結構紹介されてくる.
大まかに言うと,1)頭部外傷か,2)iNPHの疑いかで紹介されてくる.
今まで,iNPHと思って手術をしても効果がないヒトは,この疾患の可能性があるので,
神経内科に相談するのが大事と思う.
「姿勢が良い」のも症状の一つなので,要注意である.
症例2 70歳台 dural AVFからの脳出血
右の側頭葉の皮質下出血で救急搬送されてきた.
もとはパーキンソン病などあり他院に通院中.
高齢者の皮質下出血よりは,少し内側に出血している.
MRAを撮ると,一瞬違和感がある.
よく見ると,MRA(MR脳血管撮影)で右STAが写っている部分に
S状静脈洞が写っている.脳表への静脈の逆流も写っている.
要は,dural AVFで,MMA, STAから直接,静脈銅に動脈が瘻孔を介して
流入しているという画像.
結局,この症例は経静脈的にS状静脈洞を全部閉塞して治療は完了.
いわゆるTVE (transvenous embolization)である.
dural AVFはいろいろなところに出来るが,
危険な徴候は静脈銅からの逆行性の静脈灌流である.
症例3 70才台 嘔吐が続く延髄梗塞
結構な頻度で,めまいと嘔吐で救急搬送されるヒトがいる.
嘔吐中枢は,延髄の後面,area postrema (最後野)の側にある.
と言うことで小脳正中部,延髄後部の梗塞では「嘔吐」がメインの症状になる
救急搬送されてきたとき,diffusion 水平断では全く所見(-).
翌日はdiffusion 3方向も撮ってみたが,はっきりしない.
原因が不明だが,嘔吐は続く.
5日後にもう一度diffusion 3方向を撮ると,
今回は,間違いなく延髄後外側に縦に長い梗塞画像所見が出ました.
脳幹梗塞の中で「橋梗塞」は意外とすぐにはっきり見える.
しかし,延髄梗塞は画像に出現してくるのが非常に遅い.
以前にも,カンファで説明した.
延髄梗塞を疑ったら,翌日,さらに3日目と諦めずに,
diffusion 3方向はとり続けるべきである.