逸脱の画像は宮崎市医師会のサイトからいただきました.
経皮的気管切開術は,いろいろなものがある.
自分はサイの角と呼んでいるものを使ってやるのがお好み.
2000年頃にそれがでてきた.
それまでは脳外科に気管切開が依頼されていた.
週に5件ぐらい行っていたが,
この方法がでてきて,内科の先生方も出来るようになり,
古典的な方法の依頼は減った.
自分もどちらもだいぶ行った.
脳外科の研修に来てもらっていた初期研修医の先生に,
8日間に5例もこの方法で気切をしてもらったのも思い出.
しかし,欠点もある.
浮腫の強いヒト,太っているヒトには極めて困難.
適応を間違えないように.
基本的な解剖を列挙.
気管は下方に行くほど皮膚から離れて深い場所にある.
軟骨は,頭側から甲状軟骨,次に輪状軟骨.
この輪状軟骨は気管で唯一,全周性の軟骨.
だから「輪状」と呼ばれている.
それで,輪状軟骨を上から圧迫すれば気管が奥に押せるので,
挿管時に押して声門を見えやすくする.
他の気管軟骨は半周しかない.
輪状軟骨の尾側に甲状腺がある.
それを避けて,その尾側で気切をするのが基本.
甲状腺の大きなヒトは,もう一つテクニックが必要.
寝てもらっていても,皮膚,皮下組織は
E-入りのキシロカインで止血もかねてした方が良い.
よく聞かれる質問に,「声は出ますか?」と言う質問がある.
声帯は,甲状軟骨より頭側にある.
要は,気切の部位からはかなり頭側にある.
従って,通常の気切直後に声が出ることはあり得ない.
そもそも,脳外科疾患に関して,
気切の適応となったヒトが普通に会話をするということは,
あまり遭遇しない.
気管は柔らかいので,糸をかけてスピッツメスで切ると
ほんとにスパッとキレる.
自分はいつも切りすぎ注意と思っている.
形状,位置決めをきれいにしてからすること.
逆U字,U字どちらでも良いが.
そのフラップは糸で周りの組織にくくりつけておいた方が安心.
挿管している場合は,
U字に切る直前に,声門のところまで挿管チューブを引いてもらう.
あるいは,そのままU字に開いて,それから徐々にチューブを引いて,
スペースが見えたときに気管カニューレを挿入したほうが,より安全.
続き:
猪首,肥満,浮腫などのヒトは,気切までが大変.
問題の続きがある.
100 kg超とか全身の浮腫著明の場合.
表皮から気管までの距離が遠い.
通常の気管カニューレは深さが足らない.
今までの経験で,
2例が「気切の翌日に気管カニューレがすっぽ抜けた」ことがある.
自分の経験からの対策は,
1)最初から長いカニューレを準備しておく.
2)気切の時の両翼を外側にリボンと言うかひもで固定するのではなく,
皮膚に縫い付ける.呼吸器からの蛇腹が動くと気管カニューレを引っ張る.
カフのエアだけでは,つるんと抜けてしまう.
3)最初から気管カニューレの代わりに,
スパイラルの挿管チューブを気切部から挿入する.
4)すべての準備をしてから,望むこと.
翌日に自然抜去状態になると,簡単には挿入できない.
気切部位からブロンコファイバーで見ながら気管分岐部を見てそれにあらかじめ挿入していたスパイラルチューブを挿入することが一番確実.
通常のカニューレをもう一度挿入するのは,固定が大変.
まあ,簡単な教科書的な気切などがこちらに相談されることはない.
面倒な症例にならないと相談は来ないので,
二段,三段構えの準備をしていることが,こちらの売りなので,
ちゃんとしないと.