まれな脳外科関連疾患まとめ

薬物乱用頭痛 (Medication Overuse Headache) 実情と対策

これは途中。急なことで,お勉強.

(Medication Overuse Headache):日本語では、「薬物乱用頭痛」である。
「乱用」という訳語は、合っていないと個人的には思っている。
「乱用」というと、芸能人の人たちが、違法、脱法薬剤を飲んだり、鼻から吸ったりしてパーティして、翌朝、頭が痛いというような頭痛を連想してしまう。しろうとさんは、そのような人たちがMOHと思っているヒトも多いのではないかと心配する。
新しい名称は、「薬物使用過多頭痛」となっているらしい。

overuse」は、回数が多い、種類が多いという意味なので、「多用」「頻回」などが正しい。同じ薬の回数が多い。あるいは多くの種類の薬を飲むなどの状況。注射薬を使うことは無いので、「服薬過多頭痛」が一番あっている。

1)MOHの定義

そもそも定義が決められている。それは頭痛の回数、内服薬の回数などである。
「元からの頭痛」があって、鎮痛剤を飲む。それは正しい。しかし、効かない、あるいは心配で念のため飲み過ぎてそれで、また別の頭痛が出てくるというのがMOHの基本。
要は、「元の頭痛」と「MOH」の二つの頭痛があるということになる。
「1日4時間以上の頭痛が月に15日以上、年間180日以上出現するものを「慢性連日性頭痛」という。そのなかで、新しいタイプの頭痛が起きて、「毎月、市販の鎮痛薬を一ヶ月に15日以上内服しているヒト」をMOHとするという基本の定義がある。要は、薬の飲み過ぎたために起きる新たな頭痛というのが基本の定義。
もともと、頭痛が無いヒトが、鎮痛剤をたくさん飲むという状況は考えにくい。足の骨折でロキソプロフェンを大量に飲んでいると言うヒトは実在する。その人が頭痛になってロキソプロフェンを飲んでも効かないことは多い。
ICHD-3では、
1)以前から頭痛があって、その頭痛は一ヶ月に15日以上存在する。
2)1種類以上の頭痛薬治療を3か月以上定期的に乱用している。
3)それ以外に最適なICHD-3の診断がない。
となっている。
MOHは、「3か月を超えて1か月に15日以上の頭痛がある人の半分以上がMOHと言われている」とのデータがある。

2)もとの一次性頭痛は何か

大半が片頭痛、緊張型頭痛、あるいはその合併とされている。片頭痛も初期は、NSAIDsが比較的よく効く。比較的小さい子供さんにも結構、効く。しかし,アセトアミノフェンは10歳ぐらいまで、イブプロフェンは15歳を超えるとほとんど効果がなくなる。そもそもMOHは大人の頭痛である。典型的な拍動性の片頭痛なども最初は市販薬(OTC)の鎮痛剤で効く。それが、だんだん、受験勉強のストレス、社会人になったり、寝不足などで、頻度が増えてくると、緊張型頭痛の成分も入ってくる。要は,頭痛の成分が複雑になり,一つの病態でなくなる.それに心因性の要素も入る.

3)MOHの頭痛はどんな頭痛か。

飲んでも飲まなくても、常に痛いが、さらにその上に激しい突き刺すような頭痛がくるというヒトが多い。朝起きたときから、頭痛がする。頭痛の程度や部位が異なる。要は連日痛い.なにかに熱中している時は,痛みを忘れることもある.

3)市販薬は何を飲んでいるのか。

大抵が、市販薬でなる。あるいは、多くの病院を回って、すでにセデスは毎日3回基本でのまないと痛みが軽減しないというヒトもいる。いわゆるドクターショッピングも多い。
内服薬では、「ロキソニン、カロナールは効かない」。
ガイドラインには、エルゴタミン、トリプタン、NSAIDs, オピオイドなどが多いとされているが、自分の印象では、エルゴタミンを今時内服しているヒトはほとんど見ない。一番多いのが、いまだにセデス,イブである。カフェインの入っている薬の場合は月に10日以上内服でMOHの基準を満たす。セデスは,ピリン系のイソプロピルアンチピリン(視床系に作用する)、アセトアミノフェン、アリルイソプロピル尿素(医療用には認められていない)に加えて、無水カフェインが1錠に50 mg 入っている。
イブの成分も見たら、イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素、それに無水カフェインが1錠あたり40 mg含まれている。ほとんど内容は同じである。

4)「無水カフェイン」は何をしているのか。

OTC (Over The Counter)(カウンター越しにもらう薬)で一般的にはそれらを「市販薬」の意味で使っている。2007年より「OTC医薬品」と呼称が統一されている。市販薬の中には無水カフェインが入っているものがたくさんある。一番有名なのは「イブ」である。他にも風邪薬の「エスタック○○」や鼻炎用の薬など結構入っている。一般的には、血管平滑筋の収縮で、炎症部位の腫れ、血管の拍動性の軽減などで、鼻炎、頭痛などに効く薬がさらに効果が上がるようにとの目的で追加されている。無水カフェイン単独で頭痛が軽減するわけではない。しかし学生時代に片頭痛があったヒトが、働き出してコーヒー飲み出して片頭痛が出なくなったと言う女性もいた。他に中枢神経の刺激で眠気や疲労感をとり、頭重感が和らぐことはある。心拍数増加、利尿作用などもある。有名な「カフェイン離脱頭痛」というのがある。日本人ならお茶、コーヒーをたくさん飲むヒトが、それを中断すると24時間以内にでてくる頭痛と言う定義。その頭痛はカフェインを100 mg内服すれば1時間以内に軽快する。50 mg でコーヒー3杯分などと記載がある.これはまた,確認必要.またはカフェイン完全離脱後、7日以内に消失することの定義がある。アルコールの禁断症状に,少量の迎え酒が効くのと同じような理屈.
おそらく、セデスが一番効くと言うヒトは、カフェインの効果も入っているので、問題を複雑にしていると思われる。

4)診断の付け方

これは,表面的には,現状の問診でほぼわかる.問題は,大抵が10才台のころから頭痛があってという本人の長期にわたる頭痛歴を聞かないといけない.どの薬によって,MOHになったかを確認すること.

5)なぜMOHは起きるのか

様々な理由があるらしい.一般的には,鎮痛剤に感作されてレセプターの数が増える? 鎮痛剤が入ると,過剰に反応して,痛みの回路が活発化するとかわかったようなわからない様な理屈がある.それは元の頭痛の回路とは別のもの.要は,元の頭痛の回路が活性化されて,頭痛が起きて,それに鎮痛剤がはいって,また別の頭痛の回路が活性化されて,二重に痛みを感じる.それでは困るので,さらに鎮痛剤を飲んでみるとさらに痛みは増悪.そうなると別系統の痛み止めを内服したい.あるいは,痛くなりそうなから念のために内服などすれば,その薬に対して過敏になっていくのはある意味,当たり前.

6) 治療の実際

論文などには,「最も多用している薬を中止すること」と書いてある.なかなか大変である.特に市販薬の場合,入っている成分が一つでない.また頭痛の成分,要素も一つではない.他にもトリプタン製剤も,頓服とは言え,自分の患者さんも一ヶ月に30錠内服していたヒトもいた.内服すれば効くらしい.これは,診療して処方する側にも責任があると思われる.その方は片頭痛の予防薬を一切処方されていなかった.
以前から言われているのが,片頭痛からのMOHなら,アミトリプチン(トリプタノール)を処方して,最も内服している薬を中止するというもの.多い人には30mg 3錠を分3,あるいは眠前に多めに処方などあり.緊張型頭痛なら,チザニジン(テルネリン)を処方して,最も多用していた薬を中止とか記載がある.一般には,「反跳頭痛」が2週間は起きると記載がある.その間を切り抜けることが大事.群発頭痛由来ならプレドニンを結構な量,投与したりすることも書いてある.
イメージとしては,断薬を最初にして反跳性頭痛がでたら上記の薬を追加というのは,ハードランディングで大変そう.いまなら,CGRP関連製剤を注射して,頭痛が軽減してきたら,すこしずつ減量していくというのがソフトランディングで良いのではないかと思う.実際にトリプタン製剤は一月に30回のヒトが予防薬内服で一月10-15回に減っていたのが,CGRP関連製剤の注射で,一月に2回しか飲まなくても良くなって,驚いた症例がある.それでも予防薬はまだ減らせていない.ところで,「MOHの時に,片頭痛由来なら予防薬は鎮痛剤では無いので,減量,中止は必要ないか」という疑問がでる.MOHは,鎮痛剤を内服したらさらに別の頭痛に悩まされるのが基本なので,痛みの頻度が減れば,予防薬も少しは減らしても良いとは思うが,MOHの治療とはまた別である.

個人的な印象だが,無水カフェイン含有の痛み止めを断薬するときの融和策に,コーヒーを一日3杯ぐらい追加で飲むのが良い可能性があると思う.

あと,MOHのヒトで薬を多く飲んでいるヒトは,体重が増えてきているヒトが多い.頭痛が軽減してくると体重が減るヒトも多くみてきた.ということで原因か結果かは不明だが,体重は減らすように努力をすることは大事.2,3日のプチ断食で肩こり,頚部痛,頭痛が軽減したヒトなどは結構多い.体重は1.5 kg も痩せれば実感出来ると思う.数キログラム増えているMOHの患者さんも多い.

 

 

 

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