症例1 30才代 外傷性胸郭出口症候群
自分が今までみてきた,他ではわからない交通事故後の遷延する症状に関して,相談をうける.自分が受ける相談は,交通事故後の症状.自分が診察する疾患は,脳脊髄液減少症,バレーリュー症候群,斜角筋症候群,線維筋痛症,CRPS(複合性局所疼痛症候群),肩関節唇断裂などである.まず,ほとんど画像では所見がない.
外傷性斜角筋症候群などは,Roos test, Morley testが陽性なら確定診断が付く.神経性胸郭出口症候群の場合,9割は画像で所見がでない.裁判の判例でもそれは認められる.
そんなこんなで,左胸郭出口症候群と診断したが,「自賠責の後遺症診断としては認められない.その理由は,(1)鎖骨骨折,第一肋骨骨折もないので,胸郭出口症候群ではない.(2)初診時に胸郭出口症候群との診断がない.」と記載されていて,思わず絶句.これはすごい.ここまで鉄面皮で恥知らずな判定書は,しばらくみたことがなかった.1980年ぐらいの知識では無いか.全くの茶番.頭が悪いヒトはとことん頭が悪い.
「縁無き衆生は度しがたし」
そもそも,鎖骨骨折,第一肋骨骨折があれば,初診時の診断にはそのように書く.胸郭出口症候群とは書かない.交通事故当日に,痛みで腕が上がらないヒトは大勢いる.その日に確定診断をつけるのは事実上「無理」である.と言うより,つけてはいけない.誤診になる.
どんな疾患でも非常に困難である.交通事故の場合,「疑い病名」はつけられないので,最初の一週間は,入念に症状と理学的所見を追いかけないと,このような,お話ができあがる.
多くの人が知っているが,鎖骨骨折,第一肋骨骨折があれば,全員が胸郭出口症候群になるわけではない.逆にいえば,仮にこの患者さんに鎖骨骨折があったとしても,初診時に,はっきりした理学的所見が無いので,皆がなるわけではないので,これは違うと判定書類を書くこともできる.
初日から確定診断はつかないことが多いのは臨床をしていれば,どんな病気でもあり得ることが「知らない,わからない」ふりをしているのも困る.
ダメなヒトはとことんダメ.
治療法,手術法に関しては後日記載.
症例2, 70才代 軸椎骨折,椎体 椎弓骨折
崖?から2 m転落して,第2頚椎の骨折
軸椎骨折なら,普通は歯突起の骨折を考えるが,むしろ軸椎の椎体本体が上下に割れていた.ハローベストで固定.一般的な治療法に戻る.
2か月間ハローベストで固定.それで偽関節になっていなければ次は普通のネックカラー.
偽関節になっていれば固定の手術になる.
普通のネックカラーはさらに1か月使用.
その後は,徐々に外す.
軸椎の骨折もいろいろある.
症例3 60才代 TIA 実は頚動脈高度狭窄 A to A
いわゆる教科書的な症例なので,研修医の先生にはぴったり.
高血圧と喫煙という危険因子の方.
急に右上下肢麻痺と失語がでて,すぐに改善.
2日目に,もう一度でて独歩受診.
MRIを頚動脈も含めて撮ると,すでにdiffusion画像で左半球に10個ぐらい小さな脳塞栓が多発していた.症状は消失しているが,画像では小さな梗塞がすでにあった.
ここで良くある質問.
「この A to Aの多発脳塞栓,あるいは血行動態的な多発脳塞栓に対して投与するのは,抗血小板剤ですか抗凝固剤ですか」
日本語では「動脈源性脳塞栓」と呼ぶ.
これは「心原性脳塞栓」に対する言葉.
研修医の回答は「心原性とか深部静脈血栓症の場合は,抗凝固剤です.」と回答.
良く出来ている.
皮膚が切れた時,圧迫して「止血」するが,圧迫「凝固」するとは言わない.また,血液を採決した針から,ボタボタと落として,置いておくと血液は「凝固」する.
要は,血液は流れなくなったら固まるので,それは凝固.流れが遅いところとかたまる場所があるなら,抗凝固剤が適応となる.
血管がさけたら,そこに血小板が癒着する.イメージとしては,抗血小板剤は,血小板は「溝」や「水道」の中をお札が流れているようなもの.それが穴が開いたところへ集まる.
その札束がへばりつく力が低下すれば,血小板は血栓を形成できない.
血管がでこぼこなら,そこへ血小板がへばりつく.ということで血流がそれなりに早いところで,血小板がへばりつかないようにすれば,良いことになる.
イメージでは,川のなかに橋がかかっており,橋脚に木の葉は木片が引っかかるような感じ.血管が川で,橋脚がでこぼこの動脈硬化.流れている木の葉が血小板みたいなもの.
ということで,流れが早いところでは,「抗血小板剤」となる.という概念的な説明をしました.
症例その4 40才代 外傷性 髄液耳漏
特に激しくない交通事故を起こして2週間弱で独歩来院.
「右耳が聞こえにくい.吐き気がある.」が主訴.
錐体骨にあわせて,前額断のthin slice CTでは,中耳の鼓膜から内側に液体貯留.
さらには乳突蜂巣内にも液体がある.左側には一切ない.
耳鼻科で鼓膜を小切開したら,漿液性の液体が流出.その液体は,「糖が陽性」だった.
一般には,鼻水などは「糖は陰性」が基本.
耳鼻科の意見でも,脳脊髄液である.
しかし,髄液耳漏でも髄液鼻漏でもない.
thin sliceでも骨折は,はっきりしない.
ということで保存的加療しかない.
事故後3日目には,なんとなく耳が聞こえにくくなっていたような.
しかし,それ以降,増悪していなかったので放置していたような.